幸せの在処 : 004
もう止められない、止める気はない
自分にとって一番大切な存在である娘を組み敷いたラクツは、その状態のまま彼女を見下ろした。暗い中でも分かる程に顔を緋色に染め上げたファイツと、自分の視線がかち合う。その蒼い瞳は、今にも涙が出そうなくらいに潤んでいた。しかし腕を自分の背中に回してくれた彼女の反応から、怖いからではなく単に恥ずかしくて涙目になっているのだろうと推測して、ラクツはファイツの首元に顔を近付けた。「んっ……」
色白で細い首に舌を這わせた瞬間、ファイツは身体をびくりと震わせて小さく声を上げた。その声をもっと聞きたいと思ったラクツは、その首筋をゆっくりと上下に舐め上げる。
「あ……っ!」
控えめに……けれど確かに先程より大きな声を出したファイツは、顔を思い切り横に背けた。その反応に、ラクツは今の今まで彼女の首筋に埋めていた顔を離した。だが、彼女は恥ずかしいのか頑なにこちらを見ようとしなかった。
「ファイツ。顔を背けないでくれ」
「だ、だって……。は、恥ずかしくて……」
「恥ずかしい?これはまだ序の口で、これからもっと恥ずかしいことをするんだぞ?」
「う、うん……」
ファイツは大きな瞳を揺らめかせて、けれど消え入りそうな程に小さな声でそう答えた。密着した状態でなければ聞き取ることが出来なかったであろうその声は、微かに震えている。しかし、その声には怯えの色はまったく見られない。
「あたしだって、もう子供じゃないんだもん……。ラクツくんにわざわざ教えてもらわなくても、ちゃんと知ってるよ……?」
自分の下にいるファイツは相変わらず目を合わせないまま、そして相変わらず囁くような小声でそう言った。顔を赤く染めている彼女を見下ろして、ラクツは内心で苦笑する。流石に自分達がこれから何をするのかという知識はあるようだが、彼女が言う”ちゃんと知ってる”がどれ程のものなのかは疑問だ。つい数分前にリビングで彼女の耳を攻めた際にファイツは声を上げたのだけれど、その顔は”わけが分からない”と確かに言っていた。彼女が持ち合わせている知識は、多分そこまで深いものではないのだろう。そんなことをラクツは根拠もなく思った。
「そうか」
「……うん」
ファイツは微かに首を縦に振った。その拍子に、しなやかで艶がある彼女の髪の毛がさらりと揺れる。その毛先が彼女の胸元にかかっているのを一瞥して、ラクツは息を吐いた。下着姿の彼女を前にして、本当によくもまあここまで手を出すのを我慢出来たものだと思う。何だか自分で自分を褒め称えたい気分だった。しかしもう我慢をしなくてもいいのだと思い直して、ラクツは口を開いた。
「じゃあ、そろそろ胸の方も触るぞ」
「え?……ま、待って!」
「待たない」
そう言うが早いが、ラクツはファイツの腕を軽く引いて身体を起こさせた。本当ならばすぐにでも脱がせたかったのだけれど、今身に着けている胸の覆いを自分で外さなかったファイツの意思を一応は汲んで、ラクツはあえて”下着も取って欲しい”とは言わなかったのだ。しかし、いいかげんもう限界だった。「待って」と懇願するこの娘には構わずに、ラクツは彼女の背中に手を回した。そして下着のホックを外して、そのままそれを彼女の胸から取り払う。すると、豊満な胸がラクツの目に飛び込んで来た。
「……きゃあっ!」
「……っ」
自分の胸を見られてしまった事実に恥ずかしがりやなファイツは可愛らしい悲鳴を上げたが、ラクツは声を上げるどころではなかった。瞬きも、ついでに息をすることも忘れて、ラクツはただただ彼女のそれは見事な胸に魅入っていた。
(これが、ファイツの……)
驚く程に色白なそれを、放心したように見つめる。元から色白であるファイツだけれど、いっそう胸が白く見えるのは部屋を暗くしている所為なのだろうか。
「そ……。そんなに、見ないで……っ」
暗闇の中とはいえ、自身の胸をじっと見られているという事実に耐え切れなくなったのだろう。ファイツはそう懇願して来たけれど、それでもラクツは彼女の胸から視線を外さなかった。言うまでもないことだが、彼女の声は耳にきちんと届いていた。だが惚れた女の裸を眼前にしてもそう出来る程ラクツは大人ではなかったし、そんな余裕も持ち合わせてはいなかった。心の底から惚れている娘の胸を目にしたことがきっかけになったのだろう。これまで何とか保って来た自分の理性は、気付けば跡形もなく消え去っていた。
「み、見ないでって、ばあ……っ!」
あまりにも自分が見つめてしまった所為なのだろう。今まで胸を隠そうとしなかったファイツはとうとう涙声になって、身を捩らせてしまった。ファイツはそのまま胸の前で交差させようとしたから、ラクツは彼女の腕を掴んだ。
「ラ、ラクツくん?」
ファイツが何とも不安そうな声を上げて、そして戸惑ったような表情でこちらを見つめて来る。胸を隠そうとした彼女には悪いが、けれどラクツの本能は”見たい”と言っているのだ。それに、彼女の胸を触りたくてもう仕方がなかった。男なら誰でも持つ欲望に流されるままに、ラクツは無言のままで再びファイツをベッドに押し倒した。先程より勢いをつけてそうした為にベッドが軋んでぎしりと音を立てたが、ラクツは押し倒した弾みで揺れてしまったファイツの胸に釘付けになっていた。
「きゃあっ!」
今一度、それも腕を掴まれた状態で勢いをつけて押し倒されたことに驚いたのか、ファイツが小さく悲鳴を上げた。思った以上に勢いよく押し倒してしまった事実に心の中だけで謝罪を入れて、ラクツは彼女の腕から手を放した。そしてそのまま、ファイツの乳房にそっと指を這わせる。
「んっ……!」
その途端に、ファイツは唇から声を漏らした。先程この娘の首筋を舐め上げた時と同様だった。リビングで耳元に息を吹きかけた際も思ったけれど、どうやらこの娘は相当に敏感な身体をしているらしい。もっとこの娘を気持ちよくさせてやりたい、何より自分が彼女の感じている声をもっと聞きたい。既に理性は吹き飛んでいるという自覚はあるものの、ラクツは優しく彼女の豊満な胸を揉み込んでいった。
「あ……っ。……ああっ!」
ラクツが胸を揉み始めて幾ばくもしないというのに、ファイツの息は明らかに上がっていた。またもや顔を背けてしまっているものの、その瞳は確かに潤んでいる。それが恥ずかしさから来るものなのか、はたまた快感によるものなのかはラクツには分からなかった。しかし、そんなことは今はどうでも良かった。心にあるのは、ファイツをもっと感じさせてやりたいという欲だけだ。その衝動に突き動かされるようにして、ラクツは今まであえて触れなかったファイツの胸の先端に、指先で軽く触れた。
「ああんっ!」
思った通り、ファイツはそうされた瞬間に声を上げた。控えめな性格をしている彼女には珍しい程の大きな声だ。ラクツは彼女のはっきりとした嬌声が聞けたことを嬉しいと感じたのだけれど、当のファイツは相変わらず顔を赤くしたまま気まずそうに身を固くしていた。ファイツは何も言わなかったが、その顔には確かに戸惑いの色が表れている。十中八九、ファイツは自分が何故声を上げてしまったのかが分かっていないのだろうとラクツは思った。しかしラクツは何も言うことなく、ファイツの胸の先端を思いのままに弄り倒した。
「……っや、あ……っ。はあっ……」
なるべく優しくするようにだけ注意を払って、後は摘まんだり軽く引っ張ったり、とにかく自分の好きなようにラクツは動いた。軽く触っただけなのに、けれど驚く程に顕著な反応を示すファイツのことが愛おしくて堪らない。いつしか汗ばんでいた彼女の首筋に再び顔を埋めて舌先で舐め上げると、彼女はまたもや艶が混じった声を上げた。最初にそうしたよりずっと大きい声だった。それに気を良くしたラクツは首筋から顔を離して、今度は耳朶を刺激する。
「はあん……っ!」
耳朶を甘噛みすると、ファイツは首筋を舐めた時以上の嬌声を発した。どうやら首よりは耳の方が感じるらしい。もちろんそうしている間にも、ラクツが胸への刺激を止めることは1秒たりともなかった。そうこうしているうちに、最初は確かに柔らかかったはずの彼女の胸の先端は固くなっていった。暗闇の中にいる以上はよく見えないが、多分色も赤みを増していることだろう。ラクツは彼女にまた別の刺激を与えようと顔を胸元に近付けて、白い乳房に舌を這わせた。
「やんっ!……ああっ!」
舌で乳房を舐め上げる度、ファイツは身をもじもじと捩らせて唇から声を漏らした。指で触れた時より強いその反応から、ラクツは”この娘は舌で刺激する方がより感じる”ことを感じ取った。多分、これも舐めたら一際大きな反応を見せてくれることだろう。もっとファイツが感じるところが見たいと思ったラクツは、けれどあえて胸の先端を刺激することは避けた。今まで散々焦らされたお返しに、少しだけ意地悪をしてみようと思ったのだ。執拗に乳房だけを舐め続けていたラクツは、今まで甘い声を上げて身を捩らせるだけだったファイツの手が自分の肩にかかったことに気付いて、ゆっくりと顔を離した。
「ラクツくん……っ。ダ、ダメだよ……」
息も絶え絶えに、しかしはっきりとした口調で”ダメ”だと言う彼女の言葉に訝しんで、ラクツは軽く眉をひそめた。口でこそダメだと言ったが、しかし身体の方はどう考えてもいい反応をしているはずなのに。肩で荒い呼吸を繰り返している所為で、唾液で濡れた彼女の乳房がその動きに合わせて上下に揺れているのが視界に入る。すぐにでも行為を再開したいと思ったものの、その欲望を何とか押し止めたラクツは彼女の顔に視線を移した。
「ダメって……。何がだ?」
「だ、だから!その……。な、舐めるのはダメなのっ!」
「何故?……あえて訊くが、指でされるよりキミにとってはずっと気持ちいいだろう?」
「……そ、それでもダメ!」
自分の言葉を否定しなかったところからすると、やはり自分の見立ては間違っていなかったらしい。頬を染めて涙目になっている彼女が可愛らしくて、ラクツは柔らかく目を細めた。しかしファイツは眉根を寄せて、「ラクツくんの意地悪」なんてまたもや可愛い言葉を口にした。今の彼女に睨まれても何の迫力もないし、それどころかこちらの劣情を煽るだけなのだけれど。だけどラクツは「はいはい」と苦笑しつつもその指摘はせずに、じっとこちらを見つめている恋人の顔をまっすぐに見返した。
「理由を訊いてもいいか?」
「そ、そうしたら……。止めてくれる?」
「理由によるな。ボクにも納得出来るものなら、まあ聞き入れてもいいが」
「ほ、本当?」
「ああ。だから、話してくれるか?」
「う、うん。あのね……。だって今、すっごく汗かいちゃってるんだもん……」
「……汗?」
予想外な言葉に、思わずラクツは目を見開いて彼女の発言を繰り返した。冗談を言っているのかもしれないとも一瞬思ったが、ファイツは至極真面目な顔をして「うん」と頷くだけだった。
「せっかくシャワーを浴びたのに、汗かいちゃって汚いから……。だからラクツくんに舐められるのは……ひああっ!」
ファイツの言葉を最後まで聞くことなく、ラクツは固くなっている彼女の胸の先端を口に含んだ。そのまま舌先で舐め転がすと、ファイツは一際大きな嬌声を上げてびくんびくんと身を跳ね上げた。
「ひあ……っ!ラ、ラクツ……くん……っ。ど、どうしてっ……?」
「ボクは別に気にしない。キミの身体に汚いところなんてない」
「そんな……っ!あ、ああんっ!」
はっきりと意思を伝える為に一度口を離したものの、ラクツはまたすぐに舌先で刺激を与える行為を再開させた。舌で舐め上げる度に彼女は嬌声を漏らしたものの、その声はどこかくぐもって聞こえた。多分手で口元を押さえているのだろうと見当をつけつつも、ラクツは彼女には構わずに舐めることにだけ意識を集中させた。
「あ……。な……何か来ちゃうよお……っ!」
どうやら、ファイツはもうすぐ達するらしい。こちらが思った以上に彼女の感度が良かったことには少々驚いたが、それならばとラクツは今までのものより強い刺激を与えることに専念した。優しく揉み込んでいた乳房を荒々しく揉みしだき、少しだけ先端を強く摘まむ。そして同時に舐め転がしていたそれを弾くようにして強い刺激を与え、止めとばかりに甘噛みした瞬間だった。
「ダ、ダメ……っ。……あ、ああああんっ!」
今日一番の嬌声を上げたファイツの身体から、途端に力が抜ける。ラクツは彼女の胸の先から唇を離して、唾液にまみれた自分の口元を手の甲で拭った。肩で荒い息を何度も繰り返しているファイツは、確かに今達したのだ。自分の手で彼女をそうさせたことが嬉しい、ファイツのことが堪らなく愛おしい。
「な、舐めないでって……。ダメだって、言ったのに……っ!」
実際に泣いてはいないものの、ベッドに身を横たえた彼女は今にも泣きそうな声をしていた。おまけにしっかりと両手で顔を覆っていた。一度達した以上もう胸を見られることは気にしなくなったのか、はたまたそれ以上に今は自分の顔を見られるのが恥ずかしいのか。多分後者だろうなと思いつつ、ラクツは息をついてファイツを一瞥した。
「ボクは気にしないと言っただろう。まったく、どんな大層な理由かと思えば」
「だ、だって……。だって……!汗を舐められるなんて嫌だよ……っ」
「だが、ファイツ。そう言う割には、随分と気持ちよさそうに見えたが」
「う……」
「ボクの手……。いや、この場合は舌か。それによってしっかりと感じて……気持ちよくなってくれていたから、あんな声を上げたんだろう?」
「ラ、ラクツくんの意地悪っ!……あ、あんなの、あたしの声じゃないもん……」
「そうか。じゃあ、試してみるか?」
「え……?ひゃあっ!」
彼女の白い太ももをそっと撫で上げると、ファイツはぐったりとさせた身体を大きく跳ね上げた。達したばかりだから当然かもしれないが、それにしてもこの娘は感度がいいようにラクツには思えた。それに対しての感想は”ひたすら可愛い”、これに尽きる。
「まだこちらは触れていない。ボクは、ファイツの可愛い声をもっと聞きたい」
「……ラクツくんのえっち」
「何とでも言ってくれ」
ラクツがそう言うと、彼女は涙目でこちらを恨めしげに睨んだ。しかしそんな表情をされてもラクツには意味がなかった。それどころかむしろまったくの逆効果になっているわけだが、彼女はその事実に気付いていない。何とも彼女らしい反応に苦笑しつつも、男としては引き下がるわけにもいかなくて。だからラクツは熱い情欲を瞳に湛えて、ファイツの身体に向かって手を伸ばした。