school days : 014
ひかえめ・わんぱく・やんちゃ
駅前にある行きつけのカフェで、ファイツ達3人は仲良くお喋りしていた。立地が良く雰囲気もいいその店は、特にファイツのお気に入りだった。それに、何よりパフェが美味しいのだ。今日もファイツのリクエストで、ショッピング帰りの3人はここにいた。それぞれの荷物を置いて、話に花を咲かせる。店員に頼み終わるとすぐに、さっきの続きとばかりにワイが口を開いた。「でね、その時エックスが何て言ったと思う?」
「”要らないワイちゃん”、とかやろうか?」
「そう!流石ねサファイア。人がせっかく作ったのに、酷いと思わない?」
この前、隣に住んでいる幼馴染の為に作った料理をまとめて突き返された話をしていたワイが、ファイツに話を振った。
「えっと……」
テーブルの端に置かれた単語カードをちょうど見つめていたファイツは焦った。来年こそは特進クラスに入ろうと意気込むファイツは、前にも増して勉強するようになっていたのだ。2人共それに理解を示してくれるけれど、ワイに話を聞いていないと思われたかもしれない。
「ごめんファイツ!アタシ、邪魔しちゃった?」
「ううん、いいの!あたしの方こそごめんね、ワイちゃん」
「ファイツって本当、N先生が好きったいね」
互いに謝る自分達を見ていたサファイアがぽつりと零した。最初は別の話題で盛り上がっていてもやっぱりそこは女子高生、次第に話が恋愛方向にシフトするのはお決まりだった。
「サ、サファイアちゃんっ!」
ファイツは先程よりもっと焦った。いくら土曜日の午後とは言ってもここは駅前のカフェなのだ、誰か知り合いがいないとも限らない。現に、過去に数回クラスメートと居合わせたファイツは思わず辺りを見回した。知っている人がいないのを慎重に確かめてから、こくんと素直に頷いた。やっぱり恥ずかしいけれど、この2人の前では今更なことだから。
「だって、N先生って素敵だし……」
「一目惚れだっけ?」
「……うん。入試の日にね、あたしを励ましてくれて……。それからずっと、N先生のことが好きなの」
「そっか……。そんなに好きなら言っちゃえばいいのに」
ワイの発言に、サファイアがうんうんと頷いて同意する。ワイは未だに、せっかくのチャンスをファイツが不意にしたと思っているのだ。
「え……!!で、でも……。ほら、先生と生徒だし……っ」
「そんなの、卒業しちゃえば関係ないわよ。ドラマとかでよくあるじゃない、卒業式の日に告白とか」
「えっと……っ」
ファイツは考え込んだ。自分が彼に告白するシーンを思い浮かべてみる。
「…………」
「顔が赤いったい、ファイツ」
「本当、顔真っ赤!」
「だ、だって……っ!」
「うーん……。まずはそれを改善しないとね。ほら、ファイツってN先生と話すだけで精一杯でしょ?やっぱり恋愛は押して押して押しまくらないと!」
「う、うん……」
正直積極的な自分が想像出来なかったのだけれど、それでもファイツは頷いた。
「でも本当に人気あるったいね、N先生」
「そうよね。先生の中で女子に一番人気なのはN先生だけどさ。生徒ならやっぱり、A組のラクツくんかしら?」
「え……」
その名前を聞いた途端、ファイツの顔はさっと青ざめた。もし見られたらどうしよう、とおそるおそる2人を見たけれど、どうやら気付かれることはなかったらしい。ファイツはそっと安堵の溜息をついた。別に秘密にしているわけではないけれど、彼が自分の幼馴染だという事実を何となく知られたくなかったのだ。
「ファイツはどう思う?」
今度はちゃんと話を聞いていたファイツは答えた。聞かなければ良かったかも、なんて思いながら。
「そう、だよね……。人気だよね……」
「あ、ファイツはあんまりラクツくんに興味ない感じ?やっぱりN先生一筋なんだ。それともラクツくんのことをよく知らないとか?」
「えっと……」
中学校は違うとはいえ、小さい頃は彼と本当に仲良くしていた。それも毎日のように遊んでいた気がする。だからきっと、ファイツは彼をよく知っているはずなのに。だけどファイツは、ラクツくんはあたしの幼馴染なんだよとは言えなかった。
「あたしは……。……あたしは、彼が苦手だから」
「ああ、完璧だもんねあの人。勉強も運動も出来るんでしょう?そのおかげで剣道部のマネージャーになりたいって女子が多くて、去年は大変だったらしいね。今年はどうなんだろ。何か完璧過ぎて、逆に近寄りがたいって感じ?」
「う、ん……」
自分がラクツを苦手なことは本当だ。けれどそれは彼が完璧過ぎて近寄りがたいからではない。彼が自分だけには冷たい瞳を向けるからだなんて2人にはとても言えず、ファイツはぎこちなく頷いた。