育む者 : 027

逮捕する者は決意する
”次の辞令が言い渡されるまでは国際警察本部で待機するように”。長官から言い渡されたその命令を忠実に守るつもりでいる黒の2号は、今日も今日とて併設されている宿泊施設の一室にて時を過ごしていた。今までに関わったことのある、国際警察に所属しているポケモン達の顔を見る。本部まで足を運んだ目的を報告を終えた翌日に達成したこともあり、黒の2号は専らこの部屋に閉じこもっていた。そう、文字通り1歩も出なかったのだ。部屋にこもっていたことに深い意味はなかった。単に部屋を出る気になれなかっただけだ。

「…………」

何の気なしに壁かけ時計に目線を向けた黒の2号は軽く目を見開いた。自分の感覚では精々10時辺りだろうなと踏んでいたのに、実際は12時半を過ぎたところだったのだ。正午を回っていたことにまったく気付かなかった。別に空腹感を覚えていたわけではなかったが、せっかく昼時になったのだからと黒の2号はベッドに横たえていた身体を起こした。

(とはいえ、正直気乗りしないな)

正確には待機中の身なれど、事実上の休暇を謳歌していると言っても過言ではない。有休など消化したことのない自分にとっては実に貴重な休暇だ。長官が慮ってくれたおかげでフタチマルと共に充分過ぎる程の休息を得られた。肉体的疲労は微塵もない上、ケルデマルを始めとしたポケモン達も元気そうだった。そう、まさに万全の体制で任務に臨めると言い切れる。
しかし、黒の2号の気分はどことなく晴れなかった。肉体的には健康そのものなのに、精神疲労が著しい気がしてならない。とにかく憂鬱で仕方なくて、何をするにも億劫なのだ。フタチマルの分はちゃんと用意するけれど、いっそのこと自分は昼食を抜いてしまおうか。そんな考えが頭を過ぎる程だった。

(いや、そういうわけにもいかないか。いざという時に力を発揮出来ないのは困る)

楽な方に進もうとした黒の2号は、しかしすぐに考えを翻した。何しろ自分は警察官なのだ、規則正しい食事時間が保証されているはずがない。食べられる時に食べないでいてどうする。とりあえず食事をすることにしたはいいが、やはりどうにも気が重かった。今に始まったことではないのだが、今日は輪をかけて憂鬱だ。こうも億劫さを感じるとなると関係者のみが利用出来る食堂に行くという手もあるが、生憎それなりの距離があるわけで。任務に関することならまだしも、食べる為だけに距離がある場所に足を運ぶというのもそれはそれで面倒だと黒の2号は思った。むしろ自分で作った方が多分早いだろうし、何より他人が大勢いる煩わしさを感じずに済む。
いつも通り、自分で作ろう。自炊することを決めた黒の2号は、四肢を広げてもなお余りある広さのベッドから足を下ろした。すると、まるでタイミングを見計らったようにフタチマルがやって来た。手入れが済んだところだったのか、武器にしているホタチが太陽光に反射して煌いているのが見えた。

「フタチマル、食事にしよう。お前は何にする?……そうか、好きなだけ食べていいぞ」

袋に入った惣菜パンを見つめているフタチマルの頭を軽く撫でてやった後で、黒の2号は豪華な刺繍が施されたスリッパを履いた。歩を進める度にスリッパの感触が両足を優しく包む。ふかふかの感触だ。

(……金がかかっているものだな)

散々利用しておいてなんだが、この部屋にあるものは何から何まで無駄に豪華だ。次から次へとパンを口の中に放り込んでいるフタチマルとは対照的に、重い足取りでキッチンへと向かいながら、黒の2号はそんなことを思った。豪華なのは足を包んでいるスリッパだけではなかった。国際警察に所属している者なら誰でも申請なしで利用出来るこの施設は一部屋一部屋が個人で使うには過剰過ぎる程の広さをしていて、冷暖房完備はもちろんのこと最新式のキッチンやバスルーム、そして自動で動く掃除機まで設置されているのだ。果ては炊事を好む者の為に、新鮮な食材を運んでくれるサービスまであるというのだから最早呆れてしまう程だ。
冷凍庫付きの冷蔵庫から卵を取り出した黒の2号は、はあっと溜息をついた。この冷蔵庫は急速冷凍やら真空保存、更には専用の端末から遠隔操作可能などの様々なシステムが備わっていたのだ。自分に言わせれば、全て無駄な機能だ。”冷蔵庫がそうなのだから、どうせこれも上質な卵なのだろう。どう考えても金のかけ方を間違えている”。心の中でそう吐き捨てつつも一部の隙もなく磨き上げられたコンロの前に立った黒の2号は、息を吐くと溶き解した卵を熱したフライパンに流し込んだ。今日の昼食は焼いた卵とパン、そしてサラダでいいだろう。自分は元々、食にはあまり関心がないのだ。それにもちろん料理好きでも何でもないのだが、それでも食材を無駄にするわけにはいかない。卵を始めとした鮮度のいい食材を宅配するサービスも、そして無駄に豪華かつゆとりのある設備の数々も、全てはここに宿泊する者の健康が損なわれないようにとの配慮がなされているからこそなのだろう。そうはいっても永住するわけでもないのだし、もっと簡素でいいというのが本音だったが。

(しかし、今回はやけに時間がかかるものだ。……別に不都合はないが、こうも遅いとなると流石に気になるな)

それにしても、と思う。任務報告をし終えてから今日で1週間になるのだが、未だに長官からの呼び出しがないというのはいったいどういうことなのだろう。イッシュ地方での盗賊団を捕らえるという正式な任務を終えてからの期間も含めれば、とうに2週間は過ぎているはずだ。ある程度開きはあるが、間違いなく過去最長だと言い切れる。しかし、それ以上に気になるのが……。

「……あ、ああ。すまないな」

ふくらはぎを軽くつついてくれたフタチマルのおかげで料理の真っ最中であることを思い出した黒の2号は、更に眉間を寄せた。完全に上の空だった所為で、卵がものの見事に焦げてしまっていたのだ。黒焦げの部分を箸で摘んでフタチマルに向けて差し出したのは、嫌がらせ目的ではなくもしかしたら好んで食べるかもしれないと思ったからだ。好き嫌いがないはずの彼が黒焦げの何かを進んで食べたことは今でも憶えている。

「……いらないのか?」

そっぽを向いた彼に一応問いかけたらこくりと頷かれたので、黒の2号はそれを口に含んだ。黒く焦げたそれは、当たり前だが炭の味がした。率直に言って不味いと、黒の2号は思わず顔を顰めた。

「……!?」

突如として脳内に鳴り響いた声で、左手に持っていた箸が音もなく滑り落ちる。顔を顰めた瞬間に間近で聞こえたその声は、どう考えてもあの娘のものだ。”あの娘改めファイツに、美味しいねと弾んだ声で言われた”。”捨てたはずの名前を呼ばれた”。たったそれだけのことなのに、黒の2号の心臓はどくりと音を立てた。まただ。またあの娘の声が聞こえた。今回は珍しくも弾んだ声だったが、ファイツの声が聞こえたという事実に変わりはない。

(……錯覚だ)

自分に言い聞かせるかのように、胸中で呟く。事実そのはずだ。今しがた聞こえたその声は、現実のものでは決してない。部外者のあの娘がここにいるはずがない。あの娘はイッシュ地方の自宅にいるはずなのだ。それをよく分かっていながら、それでも黒の2号は部屋を注意深く見回した。しかしやはりと言うべきか、あの娘の姿はどこにも確認出来なかった。

「…………」

無意識に息を吐いた黒の2号の目に、フタチマルが神妙な顔付きで床に転がったはずの箸を掲げているのが見えた。水滴が付着しているところからして、わざわざ洗ってくれたのだろう。相棒から取り落とした箸を受け取った黒の2号は口角を上げた。自分を嘲る笑みを浮かべたのだ。幻聴が聞こえるなんてどうかしている。元々食事なんぞどうだっていい気分だったのだが、あの娘の声を聞いたことで更に食べる気が削がれてしまった。
失敗作の卵焼きを胃の中に流し込むようにして適当にも程がある食事を終わらせた黒の2号は、即座に食器洗いを済ませるとだらしなくもベッドに身体を横たえた。食後の運動がてら訓練室で汗を流す気にはどうしてかならなかった。この施設に身を寄せている際には欠かさず行っていたそれは、確かに自分の日課だったはずなのに。けれど今回は、一度たりとも足を運んでいないのだ。こんな有様では身体が鈍る一方だし、何より任務に支障をきたしかねないではないか。だけどそう思えば思う程、どういうわけか行く気がますます失せるのだ。どう考えてもこれは異常事態だ。いや訓練云々に関わらず、ここ最近の自分は本当にどうかしている……。

「…………」

無駄に広い天井を見つめながら、黒の2号はまたしてもはあっと深く嘆息した。この部屋で生活してから早くも1週間が経つが、振り返ってみれば堕落の限りを尽くした1週間だった。警察官として自らの肉体を鍛えることもなく、事務処理をするわけでもなく、道具の整理や整備をするわけでもなく、フタチマルを筆頭とした国際警察に所属するポケモンを”おや”として構ってやるでもなく。基本的にはぼんやりと物思いに耽っているか、それ以外は料理をするかシャワーを浴びるか寝ているかで、実に無駄な時間を過ごしているだけのような気がする。そうなった要因は理解している。事ある毎にファイツの幻影が脳裏を過ぎるからだ。それも、1日たりとも欠かさずに。何なら夢にまで出て来る始末だ、こちらは流石に毎日ではないが。

「まったく……。つくづく困ったものだ」

唇から勝手に零れた言葉は、紛れもなく自分の本音だった。あの娘との縁はもう切れているはずなのに、こうも頻繁に脳内に出て来られるというのは流石に困る。困り果てていると言ってもいいかもしれない。実際、生活に悪影響が出ているのだし。そもそもどうしてあの娘の姿が浮かび上がって来るのだろうか。眉根を寄せた黒の2号はまたしてもファイツへと思いを馳せた。そうしたところで答が出ないことはとうに理解しているが、それでもそうせざるを得なかった。
そもそも、幻のあの娘が基本的には泣いているということからしてまず意味不明だった。自分のおかげなどと主張するつもりは更々ないが、ファイツは辛くも性被害に遭わずに済んだのだ。肉体的にはもちろん、金銭的にも何ら被害を受けていないことは把握している。それなのに泣いているファイツばかりが脳裏を過ぎるというのはいったいどういうことなのだろう。こういう時には良かったと安堵するところではないのか。いや、そもそも自分にテレパシー能力などないのだけれど。
首を傾げた直後に浮かんで来たのはやはりあの娘の泣き顔で、黒の2号は堪らずに本日何度目になるか分からない深い嘆息をした。何故こんなにも頻繁にあの娘の顔が脳裏を過ぎるのだろう。どうして想像上のあの娘がほとんど決まって泣いているのだろう。そして、あの娘は今どうしているのだろう。やはり気になる、どうにも気になる。ファイツのことが、気になって気になって仕方ない……。

「フタチマル、お前はどう思う?……ボクはいったいどうすればいいのだろうか……」

相棒の意見が聞きたくて尋ねたものの、目ぼしい成果は得られなかった。フタチマルは期待したような反応を見せずに、ただこちらをじっと見つめているだけだったのだ。身体を起こした黒の2号は彼の顔をまっすぐに見返した。もちろん自分には彼が何を考えているかは分からなかった。しかし「その答は自分でも分かっているだろう」と、つぶらな瞳が言っているような気がしてならなかった。

「……!」

しばらくの間目を伏せていた黒の2号だったが、はっと我に返った。ライブキャスターの呼び出し音が鳴ったのだ。それは思った通り、長官からの呼び出しに他ならなくて。こうしてはいられないとベッドから飛び降りて手早く身だしなみを整えた黒の2号は、フタチマルをモンスターボールの中へと戻した。

(そういえば……。あの娘はポケモンをボールの中へ入れることを酷く嫌がっていたな……)

こんな時なのに懲りずにファイツのことを考え出した自分を叱咤した黒の2号は閉じこもっていた部屋を飛び出したが、その足取りは相変わらず重かった。それでも出来る限りの早歩きで歩いたことが功を奏したのか、呼び出しを受けた3分後には長官がいる部屋の前に立っていた。いつも通りノックを3回行うと、すぐさま上司の「入りたまえ」という声が飛んで来た。

「失礼します」

言うまでもないことだが、上司の許可を待たずに入退室するのは規律に反する行為だ。断りを入れてから入室すると、椅子に座っている長官の顔が目に飛び込んで来た。いつもと何ら変わらないように見える上司を見据えて背筋を伸ばし、深々と頭を下げる。3分とはいえ、上司を待たせたことは歴とした事実なのだ。

「黒の2号、ただいま参りました。お待たせして申し訳ありません」
「顔を上げたまえ。いや、こちらこそすまなかったな。会議が難航していた所為もあって、予定より大幅に時間がかかってしまった。……しかし同時に、働き詰めのキミにはちょうどいい休暇になったことだろう。図らずも1週間の休暇になったが、リフレッシュ出来たかね?」
「お気遣いありがとうございます。心身共に万全です」

流れるように発した言葉は真っ赤な嘘でしかなかった。肉体的にはともかく、精神的にはとても万全とは言えない状態だと自覚していたからだ。深く追究される前にと、やや早口で言葉を続ける。

「それで……。ボクをお呼びしたのは、やはり任務の件でしょうか」
「その通りだ、黒の2号。辞令を受け取りたまえ」
「はっ」

互いが国際警察本部にいる故なのだろう。手渡された辞令は、デジタルではなく昔ながらの封書形式だった。内容を確認しようと封書を紐解いた黒の2号だったが、その手は途中で止まった。例によってファイツの姿が鮮明に浮かび上がって来たからだ。上司のすぐ近くでへたり込んでいる彼女の姿はやけにリアルで、いつもの如く泣き顔を晒していた。

「…………」
「……ん?どうかしたのかね、黒の2号」

長官が怪訝そうに問いかけるのも無理からぬことだ。封書を中途半端に開いたまま硬直しているのだから、誰だって気になるだろう。しかし黒の2号の目線は上司である長官ではなくその遥か下に向けられていた。実在するはずのないあの娘の声は聞こえなかったが、その唇と目はどう解釈しても「助けて」と言っている……。

「やれやれ、完全に上の空だな。キミにしては珍しいことだ。……赴任先よりまずは医務室へ向かった方がいいのではないかね?」
「い、いえ……。問題ありません……。……それでは拝見します」

ファイツのことは相変わらず気になる。しかし、寛大な上司をこれ以上待たせるわけにはいかない。意を決した黒の2号は眉根を寄せて、封書を完全に解いた。すると、その瞬間にへたり込んでいたファイツの姿は煙のように消え失せた。

(涙……)

彼女の姿が消え失せる寸前に、大きな瞳から涙が零れ落ちる様子が目に留まった。あの娘の泣き顔なんぞもう数え切れない程見ているはずなのに、例によってどうにも気になるのはどういうことなのだろうか。しかしその引っかかりも、辞令を確認した瞬間に頭から吹き飛んでしまった。

「カントー地方……」

唇から勝手に零れ落ちたのは、次の赴任先の地名だった。任務の詳細より先に、何よりもまずその地名が目に付いた。国際警察官として世界中を飛び回ることもある黒の2号だが、カントー地方に行けと命ぜられるのはこれで5回目になるだろうか。気候も穏やかで自然豊かな、比較的過ごしやすい地方だ。しかし同時に、イッシュ地方とは物理的にかなりの距離が開いている地方でもある……。

「どうしたのかね、黒の2号。先程から押し黙っているようだが、任務の内容に不服でもあるのかね?」
「い、いえ……。断じて、不服というわけでは……」
「では、何故承諾しないのかね?」
「それは……」

黒の2号は言葉に詰まった。辞令を持った指先が小刻みに震えていたのは、上司から滲み出た重々しい雰囲気に決して気圧されたわけではないことは自分でも分かっている。そう、それこそカントー地方に行かなければならないと知った時から震えていたのだから。
けれど、黒の2号は”分からない”と思った。また別の盗賊団を捕らえよという任務内容を今になって確認しながら、黒の2号はそう思った。幻影が浮かんで来るという事実を含めてファイツのことが気になるということも、言外に急かされたにも関わらず「任務を拝命します」という言葉がいつまで経っても出て来ないことも、そして厳格なはずの上司が黙ったままでいる自分を待っていてくれている理由も。
色々と分からないことだらけだったが、これだけは確信を持って言える。このままおとなしくカントー地方に行くということはつまり、それだけあの娘に会えるタイミングが後ろにずれ込むということなのだ。首尾よく任務を終わらせたところで、悪が蔓延るこのご時世だ。それこそ再会は数ヶ月後か、あるいは数年越しになるかもしれない。

(それは、困る。……いや、困るというよりむしろ……)

むしろ”嫌だ”。黒の2号は心の底からそう思った。カントー地方に行くということが、任務を拝命することが、いやはっきり言ってしまえばファイツと会えないままでいることが、嫌で仕方がなかったのだ。

(そう、か……。ボクは、あの娘に会いたいのか……。ずっと、あの娘に会いたいと思っていたのか……)

奥底では気付いていながら目を背けていた声なき叫びを認めた瞬間に、心にずっとのしかかっていた何かが不思議と消え失せた。心が軽くなるとは言うが、まさに言葉の通りだった。こんな時なのにのんきにも程があることを思いながら、ゆっくりと口角を上げた。警察官としてではなく、1人の人間として、黒の2号改めラクツは笑った。

(彼女との縁は切れた、か……。自分で言っておいて何だが、的外れにも程がある考えだったな)

”これ”が実に子供染みた考えであることは理解している。そして命令違反にも程がある行為であることももちろん理解している。つまりは何かしらの処分を受ける可能性が極めて高いということも分かっていて、それでもラクツは言わなければいけないと思った。だって、嫌なものは嫌なのだ。せめてひと目でもいいからあの娘に会いたいと思った。カントー地方に赴くのはその後だ。本当に赴けるかは分からないが、とにかくそうしたかった。何しろ、幻のファイツが自分にはっきりとした助けを求めて来たのはあれが初めてのことだったのだ。”むしのしらせ”とも言うし、第六感が働いたのかもしれない。

「……長官。任務の内容に断じて不服はありません。しかし、誠に恐れながらこの辞令には承服しかねます」
「ほう?……何か、理由があるようだね」
「はい」
「……よかろう。言ってみたまえ」

あの家を去った瞬間に、ファイツとの縁は確かに切れたのかもしれない。その縁を、叶うことなら結びに行きたいとラクツは思った。自分の足でイッシュ地方に向かって、自分の目であの娘の現状を確認して、自分から切った縁を自分の手で結び直すのだ。
もちろん、この決意が承諾されるかどうかなんてまったくもって分からなかった。常識的に考えれば通る見込みは薄いだろう。しかし、間違いなく断られるとも言い切れないではないか。だから、ラクツは深呼吸した。上司兼父親をまっすぐに見据えて、姿勢も正して、意志を伝えるべく引き結んでいた口を開いた。