黒の少年と白の少女 : 024
ずっと見たかったもの
大好きな人に「どうやらお前に惚れているようだ」と告げられたファイツは、ただひたすら呆然としていた。ラクツに強く抱き締められた状態で、何度もぱちぱちと瞬きを繰り返す。もしかしたら夢を見ているのかもしれないと一度は思ったが、彼に抱き締められているこの感触も伝わって来る彼の体温もどう考えても夢や幻などではあり得なかった。つまりこれは、歴とした現実なのだろう。(でも、でも……っ。やっぱり信じられないよ……)
彼のことは他のどんな人間よりも信頼しているファイツだけれど、それでも今しがた告げられた言葉をすんなりと受け入れる気にはとてもなれなかった。だって、大好きで堪らない存在である彼が自分と同じ気持ちを向けてくれているなんて……どうしたって都合が良過ぎるではないか。大好きな人に愛されたいという願望のあまり、実は白昼夢でも見ていましたなんて言われた方が余程しっくり来るような気がする。
「嘘、か。お前はボクの言葉をそう言って否定したが、これは断じて嘘ではないぞ。ボクは心の底からそう思っている」
「…………」
「……ファイツ?」
「あ、うん……」
ものの見事に放心状態にあったファイツは、彼に名を呼ばれたことでようやく我に返った。同時に「どうしよう」と、声に出さずに呟く。自分が何かを言われていたことは辛うじて分かるのだけれど、放心していた所為で肝心の内容をまったく聞いていなかったのだ。この場の雰囲気的にものすごく大事であろう話を”聞いていなかった”というのは、いくら何でも良くないだろう。いつまでもぼんやりしているわけにはいかないことは分かるが、かと言って正直に打ち明けていいのかもファイツには分からなかった。どうしたものかと困り果てていたところに、不意に盛大な溜息が聞こえて少しだけ身を固くする。
「ファイツ。……お前、ボクの話を聞いていなかったな」
「う……。えっと、ごめんなさい……」
「……まあ、いい。ボクがファイツに惚れていたという事実をお前が開口一番に否定したから、嘘ではないと念を押したんだ。恋愛としての好きを、惚れたと表現するのだろう?」
「あ……っ」
そう尋ねられるや否や背中に回されているラクツの腕の力が更に強まって、ファイツは思わず小さく言葉を漏らした。同時に酷く息苦しさを感じていることに気付いて、自分を強く抱き締めている彼の背中をとんとんと繰り返し叩く。言うまでもなくファイツの心臓は、それはそれは激しく鳴り響いていた。
「ラ、ラクツくん……っ。お願い、離して……っ」
「断る。ファイツがボクにとって何よりも大切な存在であるとようやく理解したんだ。お前を離したくない」
「で、でも……っ。すっごく息苦しいよ……っ。このままじゃあたし、窒息しちゃう……っ!」
息も絶え絶えに言い終えた途端に、今の今まで感じていた息苦しさがふっと和らぐ。大好きな人の視線が何本も突き刺さっているのを感じながら、ラクツの腕の中から解放されたファイツは胸に手を当てて何度も何度も深呼吸を繰り返した。
(あたしったら、こんな時に何やってるんだろう……)
いつものことだとはいえ、彼だってきっとこんな自分に呆れ果てててしまったに違いない。ある程度落ち着きが戻ったところで隣にいるラクツにそろりと視線をやったファイツは、だけど目を大きく見開いた。彼の瞳に、呆れとは似ても似つかない激情の色が揺らめいているのがはっきりと見て取れたからだ。”目は口程に物を言う”とはよく言ったもので、驚くべきことに彼が自分と同じ気持ちを抱いてくれているであろうことをファイツは今更ながら理解した。多分、感情に乏しいラクツだからこそ”惚れているらしい”なんて言葉を口にしただけなのだろう。
「……どうだ、息苦しさは治まったか?」
どことなく気遣わしげに尋ねて来たラクツに、うんと小さく頷く。やっぱり彼は優しい人なのだと改めて思う、そう言うと本人は決まって怪訝そうな顔をするけれど。
「……ねえ、訊いてもいい?」
「何だ?」
「ラクツくんって、本当にあたしのこと好きなの?」
「…………ファイツ」
今度は咎めるように名を呼ばれたファイツは、目を逸らしてしまいたい気持ちをぐっと堪えてラクツをまっすぐに見返した。こちらの発言で彼が気分を害したであろうことを読み取って、「ごめんね」と心の中で呟く。告げられた言葉を理解していないわけでも彼を信じていないわけでもないけれど、どうしてもこれだけは確認しておきたかったのだ。お互いに無言のままで見つめ合ってからどれくらいの時間が経ったことだろうか、重苦しいくらいの沈黙はラクツの深い溜息によって破られた。
「まさか、まだボクの言葉を疑っているのか?」
「そんなことないよ!……だけどね、やっぱり信じられないんだもん……っ。えっと、本当にそう思ってくれてるんだよね?何となく勢いで言っちゃったとか、実は気付いてないだけであたしに同情してるってことはない?落ち着いてよく考えてみて、ラクツくん!」
「……落ち着くのはお前の方だとボクは思うがな、熟考した上で”ファイツに惚れているようだ”と言っているんだ。”かわいそう”というだけで動く程人が善い人間ではないし、そもそもその感情自体が理解出来ない。第一、お前にそんな嘘をついて何の意味があるんだ?」
「そ、それはそうなんだけど……っ」
静かな声で逆にそう問い返されて、ファイツはぐっと言葉に詰まった。そうなのだ、彼の言葉はまさに正論でしかなかった。ラクツが意味のあることしかしない人間であるということは、誰よりも自分が一番よく知っていた。もちろん冗談で言っているのでもなく、彼は言葉通りに本気でそう思ってくれているのだろう。彼と両想いで嬉しいという気持ちは確かにあるのだけれど、それよりも遥かに戸惑いの方がずっと大きかった。
「ファイツが長官の……いや、この際だから正直に告げよう。長官だけでなく国際警察上層部全体の慰み者にされるのだと知って、ボクは衝撃を受けるのと同時にとてつもない嫌悪感を覚えてな。そのことが切っかけで、お前に惚れていた事実にようやく気付いたというわけだ。今まで気付いてやれなくてすまなかったな、ファイツ」
「そう、なの……?」
「そうらしいな。例えお前がミスを犯さなくとも、将来的にはファイツを名ばかりの秘書として異動させる算段だったようだ。”お前は上層部に気に入られている”とボクは踏んでいたわけだが、とんだ誤算だったな」
「…………」
ファイツはびりびりと痺れて上手く働かない頭で、親代わりでもある長官や上層部の人間の顔を何とか思い浮かべた。あまり関わったことはないけれど、それでも上層部の人達は自分に対して親しげに話しかけてくれたことが多かったように思う。だから彼らのことが嫌いではなかったし、それに長官のことだってラクツ程ではないにしろファイツは好きだったのだ。確かに厳しい訓練ばかり課されたけれど、ちょっとだけ怖いとも思っていたけれど、それでも実の父のように慕っていた部分は確かにあった。その長官が、そして上層部の人間達が、だけど自分を女として見ているのだと大好きな人は言う。その信じがたい事実にファイツは思わず口元を片手で覆った、突如としてものすごい吐き気を覚えたのだ。その数秒後にベッドの縁に置いた自分の手に温かい何かが重ねられていることに気付いて、ゆっくりと視線をそこに向ける。
「大丈夫か、ファイツ。……酷く震えているぞ」
「うん……。ありがとう、ラクツくん……」
自分の手を優しく重ねていてくれるラクツにお礼を言って、だけどファイツの顔は自然と下を向いた。込み上げる吐き気は何とか治まったものの、長官や上層部の人達に抱かれる自分の姿が嫌でも脳裏にちらつくのだ。多分、衝撃の事実を知らされた所為なのだろう。その光景を消し去りたいと思ったファイツは、震える唇を何とかこじ開けた。
「ラクツくん……。さっきのあたしのお願いは、やっぱり聞いてもらえないのかな……?あたし……ラクツくんになら何されてもいいって、本気で思ってるんだよ……?」
「ボクに抱いて欲しいという願いのことなら、悪いが却下させてもらう。ボクだってお前のことは好いているし、人並みに性欲も知識もあるわけだが、それでも行為に及ぶ気にはなれない」
「それって、あたしに女としての魅力がないから……?」
「……何やら妙な勘違いをしているようだな。適齢期ではないからに決まっているだろう、まったく。それより話を進めたい、ファイツは今回の件をどう受け止めているんだ?お前には長官達の慰み者にはなって欲しくないとボクは思っている。どうか、お前の気持ちを正直に吐露してくれ」
「あたしだって、そんなことしたくないよ……。やっぱり好きな人だけに触れられたいもん……。さっきは強がっちゃったけど、本当はすごく嫌だなって思ってたの……」
「……そうか、ボクと同意見というわけだな。……さて、そうなるとお前に残された選択肢は1つしかないわけだ。刑事としてミスを犯した以上、何かしらの責任を負わなければならないことは分かるな?」
重ねられた温かい手が、自分のそれをそっと握り込んで来る。怯える必要はないのだと言外に告げられているような気がして、ファイツは自分の心が温かくなるのを感じ取った。
「……うん。残念だけど、国際警察官を辞めるしかないのかな……」
「まあ、責任を取る手段としてはそれが妥当なところだろうな」
「はあ……。ごめんね、ラクツくん……。せっかくあたしの代わりに報告してくれたのに、結局こうなっちゃって……」
「結果的にはお前の身が助かったわけだし、もう気にするな。……しかし、それにしてもこれは厄介だな……」
「……どうしたの?」
「ああ……。お前が長官に抱かれている姿を想像するだけで、言い表しようのない何かが込み上げて来るんだ。……うん、もしかしたらこれが”怒り”というものなのかもしれないな。ボクには産まれつき感情が欠落しているとばかり思っていたが、どうやらそういうわけでもないらしい。これは驚くべきことだな」
「……そう言う割には落ち着いてるね、ラクツくん」
「そう見えるか?……ああ、ちなみにボクも職を辞するからお前が1人で気に病むことはないぞ。ボクと一緒にいたいが為に、無理に他の男に抱かれる必要もない」
さらりと告げられた言葉に、ファイツは目を瞬いた。何かとんでもないことを言われたような気がするのだが、果たしてそれは聞き間違いなのだろうか。たっぷり10秒は固まってからおそるおそる顔を横に向けると、いつも通りに真面目な顔をしているラクツと視線がぶつかる。その表情から彼の言葉が冗談でも何でもないことは分かってはいたのだけれど、それでもファイツは口を開いた。答は分かり切っていたけれど、それでも訊かざるを得なかった。
「……ラクツくん、今何て言ったの?」
「だから、国際警察を辞職すると言ったんだ。正確には解雇されるだろうと思っているがな」
「解雇って……。そんな、嘘……!」
「嘘ではない。何だ、その泣きそうな顔は?”気に病むな”と告げたばかりだろう、ファイツ」
その声には隠しもしない呆れの色が交じっていたのだが、ファイツにはそんなことを気にする余裕なんてなかった。顔をくしゃくしゃに歪めて、それでも何とか涙を堪えて「どうして」と尋ねる。1つだけ、思い当たることがあった。
「……やっぱり、あたしの所為なの?本当は連帯責任を取らされたとか……?」
「いや、これはボク自身で決めたことだ。報告をした直後に、お前を抱くように長官に命じられてな。何でも”本番”の際に抵抗しないように快楽を覚え込ませるという魂胆らしいが、まったくもって不快なことだ」
「でも、でも!それが任務なんだったら、尚更あたしを抱かないといけないんじゃないの……?あたしはラクツくんにされるんなら平気だし、嬉しいんだよ……?」
「言われずともそれは知っている。ファイツがボクにとって単なる幼馴染なら、お前の身体がどうなろうが”任務だから”という理由で間違いなく抱いただろうな。そうではないから抱かないだけだ、私情を挟んで任務放棄をする警視など国際警察には要らないだろう?」
「お……。落ち着いてよく考えてみて、ラクツくん!だって、ラクツくんは警視さんなんだよ!?」
そう、分かり切っていることだがラクツは警視なのだ。彼がどれ程の努力をした末にその地位に就いているのかファイツはよく知っている。それこそ、他のどんな人間よりも知っている自信はある。事もなげに国際警察官を辞すると彼は口にしているけれど、彼が自分なんかの為に地位を棒に振るなんてことが赦されるはずがないのだ。そんなことがあっていいはずがないと、ファイツは必死にラクツに向かって語りかけた。
「お願いだから考え直して!ラクツくんにとっては任務を遂行することが全てなんだって、前に言ってたじゃない!」
「ああ、そうだな。だが蓋を開けてみたら、実際にはそうではなかっただけの話だ。お前はボクにとって任務よりも、そして他のどんな人間よりも大切な存在なんだ。……手遅れになる前に気付けて幸いだった」
「でも、でも……っ。えっと……っ!」
「必死にボクを説得しようとしている努力は認めるが、何を言われてもボクの意思は変わらないぞ。いいかげんに諦めたらどうだ」
「うう……。……あっ!今の、プラズマ団関係の任務はどうするの……?」
「ハンサムと共に、引き続きプラズマ団の動向を探るようにと命じられている。全力で全うするつもりだが、途中で解雇を言い渡される可能性は高いだろうな。お前を抱く任務を最初から放棄するのだから当然のことだが」
「……えっと、あの……っ!だから……っ!!」
さっきとは比べ物にならないくらいに焦ったファイツは何とかラクツを説得しようと言葉を捻り出したのだけれど、実に落ち着いている彼によってそれらは全て論破される羽目になった。こういう言葉の応酬で自分が彼に勝てた試しがないのだから分かり切った結果と言えばそうなのだが、それでも簡単に「はいそうですか」と諦めるわけにはいかなかった。自分が職を失うのは最早仕方がないと思っているが、彼までそうなる必要が果たしてあるのだろうか?
(ううん、そんなのダメに決まってるよ……っ!)
例えラクツがそう捉えていなくても、ファイツにとっては自分の所為で大好きな人の職が失われたと思ってしまうのだ。どんな言葉を告げれば彼の気持ちを変えられるのだろうと必死に頭を働かせていたファイツの鼓膜を、ラクツの深い溜息が震わせる。
「普段は素直な癖に妙なところで頑固だな、お前は」
「だって……っ。ラクツくんがあたしの所為で犠牲になるなんて、そんなの簡単に認められないもん…。あたしはともかく、ラクツくんまで警察官を辞めなくたっていいじゃない……。そんな必要ないよ……!」
「別に、ボクは犠牲になったとは思っていない。それにお前が慰み者になることの方こそ必要がないとボクは思うが。いくら責を負う義務があるとはいえ、ただ1人だけに課すには重過ぎる処罰だ」
「でも、あの……っ!」
「何より、ファイツ。そもそもお前自身がボクではない男に抱かれることを望んでいないだろう?言うまでもないことだが、ボクだってそれは望んでいないぞ。互いがまったく同じ結論に至ったというのに、何故お前はそれ程までに固執しているんだ?」
「最早国際警察官であることにこだわる必要などどこにもないだろう」と静かに指摘されたファイツは、どこまでも落ち着いている彼の顔を非難がましく見つめるしかなかった。自分だってそれは分かっているのだけれど、素直に「うん」と頷く気にどうしてもなれないのだ。
「……ファイツ。お前、いったい何がそれ程気に食わないんだ?」
「だって……。ラクツくんは、警視さんなんだよ……っ」
「それが、どうした?」
「だから……っ!あたし達の中では、ラクツくんが一番高い地位にいるわけじゃない!その歳で警視さんになれる人間なんて、きっと後にも先にもラクツくんだけだよ……っ」
「さあ、それはどうだろうな。そんなものよりボクにとってはお前が大切だと、何度言えば分かってくれるんだ?お前はボクが国際警察の警視だから好きになったのか?警察官でないボクは、お前にとっては何の価値もない男になるのか?」
「何言ってるのラクツくん!?警視さんだからなんて、そんなわけないじゃない!地位なんて関係ないよ、あたしはラクツくんだから好きになったんだよ!?……あっ!!」
はっきりとそう言ってしまった後で、ファイツはぱっと口を手で押さえた。今告げた言葉は紛れもなく本心からのものなのだけれど、それでも”やっちゃった”と内心で頭を抱える。彼の意思をどうにか変えさせようと抵抗を続けていたのに、これでは逆効果ではないか。いつも通りの真面目な顔をしながら、だけどしてやったりと目で言っている彼を、意地が悪いと少しだけ睨んでみる。
「……ふふ……。まったくお前は素直な娘だな、これで言質は取ったぞ」
「ラクツ、くん……」
ちょっとだけラクツを恨みがましく思う気持ちはどこへやらで、ファイツは目を丸くして大好きな人の名前を呟いた。「何を放心しているんだ」と尋ねた彼に、「だって」と震え声で返す。
「……だって。ラクツくんが、笑ってるんだもん……っ」
「……そうか?」
「うん……。ラクツくんが笑ったところ、初めて見た……。教室での笑顔とは全然違うね、それがラクツくんの本当の笑顔なんだ……」
彼が今している笑顔は教室でのものとはまるで違っていた。つまり演技をしているような満面の笑みではなかったのだけれど、それでもファイツは嬉しいと思った。密かに抱いていた夢が叶ったというのもそうだが、何より彼にも感情があるのだと分かったことがやっぱり嬉しかった。
「随分と嬉しそうだな、ファイツ」
「だって、夢が1つ叶ったんだもん……。演技なんかじゃなくて、本当の笑顔をあたしに見せてくれたらどんなにいいだろうって……。ずっとずっと、そう思ってたから……」
「そうか。ファイツの目にはぎこちなく映っているだろうが、お前がそう望んでいたなら練習してみるべきだろうか」
「ぎこちないだなんて、そんなことないもん!今だってこれ以上ないくらいにラクツくんが好きなのに、もっともっと好きになっちゃったよ……っ」
あらぬ誤解をされたくないと、ファイツは顔を赤らめながら「ラクツくんが好きなの」と告げた。例え誰に何を言われようと、この気持ちだけは譲れないのだ。それこそ、自分こそが世界で一番彼を強く想っている自信があると言い切っても良かった。
「そうか、ボクもだ」
静かにそう返したラクツが、ぐっと顔を近付けて来る。ファイツが”あ”と思った時には既に、自分の唇と彼のそれがしっかりと重ねられていた。正真正銘、自分にとって初めてのキスだ。
「ボクも、お前が好きだ」
触れるだけのキスをして来たラクツにそう告げられたファイツは、だけどせっかくの愛の言葉を見事に聞き流していた。どきどきどきと壊れそうな程に高鳴る心臓の音にかき消されてしまったというのもあるが、単純に”大好きなラクツくんにキスされた”という事実を受け止めることで頭がいっぱいになっていたのだ。
「あ……っ」
「……ファイツ?」
夢にまでみた大好きな人との口付けは、しかしどうやら自分には刺激が強過ぎたらしい。遠くなっていくラクツの声をぼんやりと聞きながら、ファイツはただひたすら幸せだと思った。