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友達≧恋人未満=???
友達以上、恋人未満。アタシと彼の関係を表すのに、これ以上適切な言葉はないだろう。周囲からどう思われようと、アタシがどんなに恋人じゃないと否定しようと、アタシと彼の関係は”幼馴染”なのだ。……大切な幼馴染だから。だから、今日もアタシは。* * *
「エックス!いいかげんに出て来なさいよ!!」
いつも通りにエックスの部屋の扉を叩いて、アタシはいつもの台詞を口にする。毎日毎日よく飽きないなと自分でも思うけれど、幼馴染なんだからしょうがない。……昔は、こんなことなかったのに。アタシ達が小さな頃、エックスは周囲から”神童”と呼ばれていた。頭が良くて、スポーツだってクラスで一番。だけど周囲の彼に対する期待は大き過ぎた。いくら天才だと言われてはいても、所詮は小さな子供でしかなかったのだ。
「いつまで逃げてるつもりなの?クラスの皆だって、心配してるのよ!?」
「別に、心配なんかしてないだろ」
いつも通り、ドア越しにエックスと会話する。最初の頃は話しかけても返事すらしてくれなかった。それを思えば、随分進歩したなあと実感する。
「そんなことない!」
「オレを心配するやつなんて、1人だっていやしないさ」
「…………」
周囲からの強過ぎる重圧は、結局エックスを押し潰した。確かに彼が扉の向こうに引きこもってから、皆エックスに目もくれなくなったのは事実だけど。だけど、そんな言い方ってないじゃない!
「そんなこと、絶対ない!!少なくともサナやティエルノやトロバは、アンタのことを心配してるわ!」
それに、とアタシは言葉を続ける。
「アタシだって、エックスのことを心配してるんだから……」
何故だか涙が出そうになって、アタシはそれ以上言葉に出来なかった。アタシも彼も、何も言わない。重い沈黙を破ったのは、扉が開く音。不登校になったエックスの説得を試みてから1年と少しが経っていた。アタシが初めて聞く音だった。
「……ワイちゃん」
「エックス……!!」
何かを介さずに彼と話すのは、本当に久し振りだ。
「良かった……!分かってくれたのね!」
「ねえ、ワイちゃん」
「何?」
「……もう、ここには来ないでくれ」
「……え?」
アタシは自分の耳を疑った。
「今、何て言ったの?」
「だから、もうここには来ないでくれって。ワイちゃんは分かってないだろうけど」
彼は、そっぽを向いて一言だけ言った。
「あのさ。オレ、男だよ?」
「……何言ってるの?そんなの、見たら分かるわよ」
それを聞いたエックスは深い溜息をつく。
「やっぱり分かってない。本当に理解してたら、1人で男の部屋に来ないだろ」
「何それ。エックスとアタシは幼馴染でしょ?」
アタシだって子供じゃない。だから、彼の言わんとするところは察しがついた。だけど、アタシ達は幼馴染なのだ。
「幼馴染……ねえ」
「そうよ。何か間違ってる?」
「……まあ、間違ってないけど。正確に言うと少し違うかな」
「違うって、何が?」
「ワイちゃんの方はそうでも、オレはキミをそう見てはいないってこと」
エックスの爆弾発言に、アタシの思考はフリーズした。
「分かったら、もう来ないでくれ」
彼はそれだけ言って、扉を閉めた。
* * *
「エックスが、アタシを……?」
あの後、何とか自分の家に帰ったけれど。アタシの頭の中はエックスのことでいっぱいで、中々眠りに付けなかった。はっきり言葉にされたわけじゃない。だけどつき合いが長いから、彼の言いたい事が分かってしまった。こういう時、幼馴染って不便だと思う。
「バカみたい……。今更気付くなんて……」
エックスの気持ちは別に迷惑じゃなかった。それどころか、アタシは嬉しかったのだ。だから、多分。
「アタシ……。エックスのこと、好きなんだ……」
そうと決まったら話は早い。何としても、また彼と直接話そう。だって、言い逃げなんてずるいでしょう?……友達以上、恋人未満。つまりは幼馴染というアタシとエックスの関係は、もうしばらく続きそうだ。彼がもう一度扉を開く、その時まで。