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黒、2人
「す、好きだ社長!!」

ある晴れた日の午後、1人の少年は告白をする。自分がどれだけ彼女のことを想っているかを大声で明かした。

「……オレと、つき合ってください」

しかし返事はなく、代わりにもう1人の少年の嘆息が返って来た。だけどそれもそのはずだった。

「本人に言ったらどうですか、ブラックさん」
「そ、そりゃあオレだって……。本当はそうしたいけど」
「つまり勇気が出ないから、彼女の写真に告白したわけですか。不毛ですね」
「はっきり言うな、お前」

彼の言い分は事実だったので、睨むだけに止めた。それにしてもと、少年は彼を観察する。

(これでオレより4歳下なんだよな、こいつ)

彼、ラクツはまだ12歳だった。けれど彼の言動を見ていると、自分より歳上に感じられて仕方なかった。

「そんなこと、分かってるさ。社長は綺麗だから、ボヤボヤしてると他の誰かに取られちまうってことも理解してる」

ホワイトの写真を一瞥して、ラクツは淡々と感想を述べた。

「確かに美人ですね」
「何!?まさかお前も社長のこと……」
「落ち着いてくださいブラックさん。ボクはただ事実を言ったまでです」

今にも掴みかろうとする彼を制して、ラクツは嘆息した。

「そんなに彼女が好きなら、すぐにでも行動に移したらどうですか?」
「……言えるわけねえよ」

ぽつりと呟く。

「オレはさ、あの子を縛りつけたくないんだ」

目を開けると、そこには彼女がいて。泣きながら抱き付かれたから、ひどく慌てたのを覚えている。自分の記憶と少し違う彼女に違和感を感じて尋ねた結果、あれから2年が経っているのだと聞かされて更に驚いたことは記憶に新しい。

「笑っちまうよな。あれから2年だぜ?チェレンもベルも、社長も成長してて。オレ1人だけ、取り残されたみたいだ」

3人はもう16歳で、けれど自分の感覚だとまだ14歳のままなのだ。彼女と旅をしていた、あの頃の。

「社長は”自分の所為であんなことになった”って、すっげえ落ち込んだらしいんだ。今はあの時みたいに接してくれるけど、きっとまだ気にしてる。そんな時に好きだって言われたら、オレの気持ちに応えちまうかもしれねえだろ?例え、社長にその気がなくてもさ」
「…………」
「だから社長が落ち着くまでは、言わない。だけど、いずれは言うよ。その為に練習してるんだからさ」
「そうですか」

ラクツはそれだけを告げる。彼はホワイトを知っており、彼女がブラックに惹かれているであろうことも気付いていた。紛れもなく両想いであるわけだけれど、それを口には出さない。

(当人達が解決すべきだろう)

これは自分の勘だが、おそらく2人は結ばれる。ブラックのこの様子だとしばらくかかりそうだが。

「オレのことよりさあ、お前はどうなんだ?」
「何がですか?」
「お前、トレーナーズスクールに通ってるんだろ?好きなコとかいねえの?」

……好きな娘はいないのか。そう問われたラクツの脳裏に、1人の少女の姿が浮かんだ。しかし、ラクツは。

「いるわけがないでしょう」
「嘘だな」

間髪入れずに否定され、ラクツはブラックを見る。

「コードネーム・ハンサムだっけ?あの人が漏らしてたぜ。”ラクツ警視は変わった”とか、”彼女といる時によく笑うようになった”とか」

(……今月は減給だな)

彼は”うっかりや”だと前から思っていたが、人のプライバシーを侵すのは警察官としてどうだろうか。

「オレとお前は正反対だと思ってたけどさ。似てるとこ、あるんだな」
「ボクとあなたのどこに共通点があると?」
「だってお前、そのコにしか興味ないだろ?それはオレもだから、何となく分かるんだ」

きっぱりと言うブラックに、ラクツは眩暈を覚えた。

(ある意味……羨ましいな)

「寝言は寝て言ってください、ブラックさん」

自分と彼のどこが似ているというのだろうか。性格からして既に正反対だし、そもそも。

(ボクは……彼女とは結ばれない)

彼女が想っているのは別の人物だ。想い人に想われている彼とそうでない自分を比べて、柄にもなく目を伏せる。

「ボクは、似ているとは思いませんが」
「そうか?」
「ええ」

そう言い放った少年は気付かない。明らかに、最初と彼の印象が変わっていること。そのことに苦悩して、4歳上の先輩に相談していること。彼女の中で、自分の存在が”大好きな想い人”より大きくなっていること。既に両想いと同義になっていることには気付かずに、”黒の2号”ははあっと溜息をついた。